Q. 個人で診療所を経営しています。医療法人にすることにより何か違いはありますか?また、メリットとデメリットについても教えてください。
同じ診療所でも、「個人事業」と「医療法人」とでは位置づけが異なります。
(1)個人診療所
人格を持たない個人事業主になります。特に運営には、規制はありません。利益がすべて個人の収入になります。
(2)医療法人
都道府県知事等の許可により人格を得られる組織になります。非営利組織として位置づけされ、公共性を求められます。個人事業主であった院長は、病院から給与をもらう給与所得者になります。
(3)医療法人化のメリットとデメリット
【メリット】
医療経営と家計の分離を図ることができる
経営の主体が組織である医療法人になるので、医療経営と家計の分離が図られ、資金調達がしやすく、高額な設備投資がしやすくなる。
医療法人として附帯業務を営むことができる
分院の開設や訪問介護ステーション、有料老人ホームの運営など様々な附帯業務を営むことができるようになり、事業の多角化を図ることができる。
社会保険診療報酬について源泉徴収されない
個人診療所の場合は、社会保険診療報酬について、入金の際、所得税の源泉徴収をされますが、医療法人の場合には源泉徴収されません。その結果、月々の資金繰りが改善されるという効果があります。
給与所得控除の活用による税の軽減効果が見込める
院長の所得は、役員報酬(給与所得)として課税されます。給与所得に対しては、給与所得控除の適用があり、その分、所得税の課税所得が減少します。
役員退職金の活用が可能になる
個人診療所では、院長自身が経営主体であることから、院長への退職金という考え方はありませんが、医療法人の場合には、院長等が退職する際には役員退職金を支払うことができ、適正額までは、医療法人の損金に算入されます。
医療法人契約の生命保険の活用が可能になる
個人診療所では、院長に対する生命保険の保険料は必要経費に算入されず、所得控除が認められているだけですが、医療法人では、役員を被保険者とする生命保険の保険料が医療法人の損金とできる場合があります。
【デメリット】
社会保険料の負担が増加する
個人診療所では、厚生年金や健康保険は強制加入ではありませんが、医療法人の場合は、1人でも従業員を雇用すると強制加入となります。結果として、医療法人を設立することにより、社会保険料の負担が増加する場合があります。
交際費の一部が税法上、経費と認められない
個人診療所の場合には、事業遂行上、必要とされる接待交際費は、金額の制限なく必要経費とされますが、医療法人の場合には、交際費等の損金算入の規定により、一定額額以上は損金額に算入されません。
個人の可処分所得が減少する
医療法人を設立した場合には、医療経営から得られた所得は院長個人と医療法人に分かれるため、個人の可処分所得(所得税等の税引後の所得で自由に使えるお金)が減少します。その一方で、医療法人設立に際して、個人診療所時代の借入金を医療法人に引継ぐためには、一定要件を満たす必要があり、すべてを医療法人に引継ぐことができない場合があります。その結果、個人に多額の借入金が残ってしまい、かつ、個人可処分所得が減少してしまうと、個人の借入金の返済が苦しくなることも考えられます。税の軽減効果だけ考慮するのではなく、設立後の個人のキャッフローについても、検討しなければなりません。
都道県知事等への決算報告や社員総会等の開催など手続きが増える
医療法人は、決算期ごとに決算の承認のため社員総会等と予算策定のため社員総会等を開催しなければなりません。また、決算日後3ヶ月以内に、事業報告書・財産目録・貸借対照表・損益計算書・監事の監査報告書等を都道府県知事に提出しなければなりません。